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「それで――?あゝ」
「つい今日まで挨拶にも行かずじまひになつてね、どうも済まなかつた」
徳次はしばらく考へていた。
「どうしたい、君はその恰好をまだ見せたい気かい」
そこには一人の男が顔を手拭で蔽はれたまゝ、一種普通でない様子で寝かされていた。手拭の下からは赤黒く汚れた額の一部と、土埃にまみれた頭髪とがはみ出していた。その傍には、やはり印袢纏着の真黒い顔の男がついて、ぽかんとして戸外を眺めていた。
「あら!」
と、いきなり突きを喰はされた練吉は、神経的にさつと青ざめながら、反問した。
二人とも巻ゲートルに地下足袋姿であつた。そのうちの一人は印袢纏しるしばんてんを着ていた。房一の見たこともない連中だつた。だが、先方ではこの釣竿をかついだ猪首のやうな男が目ざすお医者だと気づいたのだらう、印袢纏の背の高い男は黄く汚れた半シャツの男に向つて、こちらを見ながら何か云つていた。
「え?いや、居ましたよ、居ましたけど、別に――」
「笹井?――御隠居さんが云つたのかい」
その外から見れば屋根と築地塀だけのやうな家の前で、三人の男が立つてしきりと話していた。
「さあて、帰るかな」
「さあ、知らん」